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意匠の「表現の不明瞭」による無効事例

意匠の「表現の不明瞭」による無効事例


前書き

専利法第27条第2項(A27.2)には、「出願人が提出する関わる図面または写真は、専利保護を求める製品の意匠を明確に表示しなければならない」と規定されている。

上記の条文は、意匠専利の授権審査手続および無効宣告審査手続において、重要な審査根拠となっている。

以下は、最高人民法院が提示した典型的な事例を結合して、上記の条文の判断原則及び審理基準を説明する。


事例の詳細に対する紹介

本事例は、専利番号が201930575028.1である意匠専利に関するものである。

本専利の図面および簡単な説明:

この専利に対し、国家知識産権局は2023年5月23日に第560546号無効宣告審査決定を下し、本専利を有効として維持した。その中で、A27.2に合致しない無効理由に対して、前述の無効決定は、図面が保護を求める意匠を明確に表示していると認定した。

無効請求人は当該決定に不服で、行政訴訟を提起した。

北京知識産権法院は、2024年6月6日に第一審判決((2023)京73行初15607号判決)を下し、無効宣告決定を維持した。

無効請求人は不服で、引き続き控訴した。

最高人民法院は、2024年12月23日に第二審判決((2024)最高法知行終672号判決)を下し、第一審判決および無効宣告決定を取り消した。

国家知識産権局は、2025年3月6日に改めて第585779号無効宣告審査決定を下し、第二審判決に基づき、A27.2の規定に照らして、本専利には明確な表現に影響を及ぼす実質的な欠陥が存在していると認定し、本専利を無効と宣告した。


争点:

使用状態図に示されているキャップを引き抜いた後に露出した杆状部の形状が明確であるか否かがポイントで、これにより本専利に明確な表現に影響を及ぼす実質的な欠陥があるか否か、即ち、専利法第27条第2項に合致しているか否かを確認することが争点になった。


無効宣告審査決定の要旨:

本専利の図面から分かるように、ペンの本体が六角柱形であり、使用状態図において、キャップが引き抜かれた後に露出した杆状部の輪郭、稜線はいずれも六角柱形のペンの本体に対応しており、この種類の製品の一般消費者の常識から、露出部分の形状はペンの本体の外殻に嵌合された、直径がやや小さくなる六角柱形であると確定できる。

つまり、使用状態図は既に専利保護を求める製品の意匠を明確に表示しており、専利法第27条第2項の規定に合致している。


二審における案件当事者の主張:

原告(無効請求人の深センの某会社)は以下のように主張した。

無効宣告決定と第一審判決で本専利のキャップを引き抜いた後に露出した杆状部の

形状を六角柱形と認定したのが誤った結論である。使用状態図が一枚しかない場合に、本専利のキャップを引き抜いた後に表示される杆状部の設計は確定できない。本専利の保護範囲は不明確であり、専利法第27条第2項の規定に合致せず、全て無効と宣告するべきである。

被告(国家知識産権局)は無効宣告決定の結論正しいと主張した。また、第二審の審理において、被告は、無効宣告決定における「ペンの本体が六角柱形である」の「六角柱形」が誤記であることを確認し、「円柱に類似した形状」であると主張した。さらに、本専利の使用状態図に表示されている露出した杆状部は四面を有すると主張し、それでも露出した杆状部が六角柱形であると確定できると主張した。


最高人民法院の裁判意見:

「明確に表示されているか」を判断する際には、関わる図面が表現する製品の意匠が確定できるか、保護範囲が明確であるか否かを基準とすべきである。立体製品の意匠に対して、「明確に表示されている」を満たすことには以下の条件に合致すべきである。即ち、

(1)製品全体の三次元形状が、図面に基づいて明確に確定できる。

(2)本専利製品の一般消費者の認識に基づき、図面が表現する各設計特徴には曖昧な部分が存在してはならず、つまり、各部分の設計特徴は確定でき、製品の設計特徴に複数の可能性が生じない。

具体的に、本案については、以下のように分析する。即ち、

スタイラスペンは立体製品であり、スタイラスペンの使用時にキャップを引き抜いた後に露出した杆状部が見える使用状態図は一枚しかない。しかしながら、杆状部の形状は完全に表示されていなく、簡単な説明にもこの部分の設計に対して記載されていない。一般消費者の認識によると、使用状態図に基づいて、露出した杆状部をペンの本体と一致する一つの平面切面を持つ、円柱に類似した形状と判断する可能性もあり、六角柱形と判断する可能性もあり、さらに他の特殊な設計が存在すると判断する可能性もある。

国家知識産権局は、無効宣告決定と第二審で、露出した杆状部の形状は六角柱形であると認定したが、二回の認定で使用された判断基準は同一ではなかった。前後の判断基準が一致しないことは、実際に結論の不一致を招き、一般消費者は更にこの設計特徴の実際の形状を確定できず、製品の設計に複数の可能性が存在する状況に至る。

最後に、本専利のペンの本体の全体形状はスタイラスペンという種類の製品の分野でよく見える一つの平面切面を有する円柱に類似した形状であり、キャップを引き抜いた後に露出した杆状部の設計がペンの本体より設計感がより強く、一般消費者により注目され、この設計特徴は本専利製品の全体の視覚的效果に顕著な影響を与える。この設計特徴に複数の可能性が存在すると、本専利権の保護範囲が不明確になり、本専利には明確な表現に影響を及ぼす実質的な欠陥が存在すると認定されるべきである。

最終的に、国家知識産権局は第二審の裁判意見に基づき、改めて無効宣告審査決定を下し、本専利には明確な表現に影響を及ぼす実質的な欠陥が存在し、専利法第27条第2項の規定に合致しないと認定した。


裁判要旨に対する分析:

本案では、「明確に表示されているか」に対して認定する際に、以下のいくつかの要素を考慮した。即ち、「図面」、「簡単な説明」、「この種類の製品の一般消費者の認識」、「ポイントとなる設計特徴に複数の可能性が存在するか否か」、及び「該設計特徴が製品の全体の視覚的效果に顕著な影響を与えるか否か」である。

以上により、立体製品の意匠専利については、専利製品の一般消費者の知識レベルと認識能力に基づき、本専利の各図面及びこの種類の製品に対する一般常識を総合的に考慮して、製品の設計特徴に依然として複数の可能性が存在する場合に、本専利には明確な表現に影響を及ぼす実質的な欠陥が存在すると認定するべきである。



事例の派生:

ヘアドライヤーの無効事例(専利番号201430047146.2)

この事例では、その図面および簡単な説明を結合しても、機首の中心が中空か否かを確定できない。無効審査手続において、専利権者はヘアドライヤーの発展歴史および専利出願時の一般消費者の認識を結合して論理を説明し、この分野の既存設計に基づいて、ヘアドライヤーの機首は一側にグリルがあり、或いは中空であり、図面に基づくと、最終的に「機首部分は中空の貫通孔である」という結論を得た。最終的に、表現が不明確で無効と認定されることはなかった。

しかしながら、上記の解釈方式は、この設計特徴が既存なものであることを自認することに相当する。一方、スタイラスペン案件におけるキャップを引き抜いて露出した柱状部分は、その部分自体が区別設計特徴であったため、論理展開方式による自己証明は困難であると考えられる。

また、注意すべきことは、このヘアドライヤーに関する事例は、司法手続を経ておらず、かつこの無効決定の結論及びその理由については議論が存在する。したがって、この案件は特例である可能性があり、前述のスタイラスペンに関する事例のほうが、より参考する価値があると考えられる。


事例示唆:

意匠の図面または写真は非常に重要な出願書類であり、最近の審査実務によると、A27.2条に対する審査もますます厳しくなっているため、専利出願段階では、図面の品質を向上させ、且つ合理的に図面を選択することを提案する。例えば、より多くの角度の斜視図、断面図などを提供して、保護を求める製品の意匠を十分に明確に表示することを提案する。