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要旨:無効宣告請求の審査過程において、専利権者は明らかな誤りを修正することができるが、専利権者が行った修正が明らかな誤りに対して行われたものであるか否かをどのように判断するかについて、往々にして話題になる。そのため、筆者は以下のいくつかの考慮要素に基づいて分析を行うことで、読者が討論して指摘するよう促す。
キーワード:明らかな誤り、明細書の記載、唯一の説明、優先権
一、はじめに
専利法実施細則第69条には、「無効宣告請求の審査過程において、発明専利または実用新案専利の専利権者はその請求の範囲を修正することができるが、元の保護範囲を拡大してはならない」と規定されている。また、『専利審査指南』には、無効宣告請求の審査過程において、請求の範囲における明らかな誤りを修正することができると明確に規定されている。しかしながら、『専利審査指南』には「明らかな誤り」とは何かについて規定されていない。したがって、発明専利または実用新案専利の専利権者は、往々にして「明らかな誤り」ではないものに対する修正を「明らかな誤り」に対する修正に分類して、元の専利の保護範囲を拡大、または解釈を拡大してしまう。
そして、発明専利または実用新案専利の専利権者にとって、「明らかな誤り」に対する修正であるかについてどのように判断するかは、無効宣告手続き全体の対応、およびその後の専利権の維持に影響を及ぼし、毫厘の差は千里の誤りとなって、発明専利または実用新案全体が無効になることにつながる。
二、「明らかな誤り」の判定
明らかな誤りとは、当業者が明細書、請求の範囲の文脈から誤りの内容を明確に判断することができ、その他の解釈をする可能性がないことであって、すなわち、請求の範囲、明細書および添付図面を読むことによって唯一的な理解を得ることができることを指す。
専利法第61条1項の規定:発明専利または実用新案専利の専利権の保護範囲はその請求の範囲の内容を基準とし、明細書および添付図面は請求の範囲の内容を解釈するために用いることができる。したがって、「明らかな誤り」は、請求の範囲の文脈だけでなく、明細書の文脈からも判断できるものである。すなわち、請求の範囲の内容に紛争があり、発明専利または実用新案専利の専利権の保護範囲を規定できない場合には、明細書および添付図面を用いて請求の範囲を限定または解釈することができる。
なお、「明細書および添付図面は請求の範囲の内容を解釈するために用いることができる」は、明細書の文脈から誤りを明確に判断した内容でなければならず、その他の解釈をする可能性がない、すなわち明細書および添付図面を読むことによって唯一的な理解を得ることができ、その他の解釈をする可能性がない。
筆者の愚見では、請求の範囲における「明らかな誤り」については、通常、当業者が本領域の通常用語、通常用語の関係に基づいて、文書解釈の一般原則に従って理解できない場合のみ、請求の範囲が不明瞭であると認定できる。なお、このような不明瞭が「明らかな誤り」を構成するか否かについては、本明細書および添付図面を読んだ後の当業者による通常の理解を結合する必要がある。本明細書を結合して理解する場合には、本明細書および添付図面を読んだ当業者の通常の理解でなければならず、解釈を拡大してはならない。ここでの「解釈を拡大」とは、明細書および添付図面から唯一的に理解できず、他の解釈をする可能性がある解釈を指す。すなわち、当業者が請求の範囲の記述の意味を明確に確定することができ、かつ明細書で請求の範囲の意味に対して特に規定されていない場合には、当業者が請求の範囲自体の内容に対する理解を基準とすべきであり、明細書に記載された内容によって請求の範囲の記載を否定することで、請求の範囲を実質的に修正する結果を達成してはならない。
三、案件の分析
1.係争実用新案専利
専利番号は20162136****.7であり、出願日は2016年12月12日、優先権日は2015年12月11日、権利付与公告日は2018年2月9日である。
2. 案件の基本事実
2019年7月23日に、無効請求人の田氏は、専利番号20162136****.7の実用新案専利の全ての請求の範囲が無効であることを国家知的財産権局に請求した。専利権者のC社は、田氏の無効宣告請求に対して、意見陳述書および請求項の修正置換頁を提出し、請求項1の「最大CSの絶対値に対する最大CTの比は、約0.01~約2である」を「最大CSの絶対値に対する最大CTの比は、約0.01~約0.2である」に修正した。
中国国家知識産権局は、第43619号無効宣告請求審査決定において、専利権者が2019年9月23日に請求の範囲に対する修正は「明らかな誤り」に対する修正に該当せず、『専利審査指南』の関連規定に合致しないと認定し、さらに、当該無効宣告請求審査決定の審査基礎は本専利授権公告の請求の範囲であるため、本専利権の全てを無効と宣告した。
これに対し、専利権者のC社は不服して、北京知的財産権法院(以下、一審法院という)に訴訟を提起した。具体的に、専利権者のC社は、明細書の[0012]段落および[0236]段落に「最大CSの絶対値に対する最大CTの比は、約0.01~約0.2の範囲内である」と記載されており、優先権文献に記載されている内容はすべて0.01~0.2であるため、請求項1における比の上限が2であることは明らかな誤りであり、この修正は「明らかな誤り」に対する修正であり、関連規定に合致すると主張した。一審法院は2022年8月29日に(2020)京73行初14981号行政判決を下し、C社の訴訟請求を却下した。
(2020)京73行初14981号行政判決において、一審法院は、以下の観点を主張した。すなわち、本専利の請求の範囲において、最大CSの絶対値に対する最大CTの比には上限が2と記載されており、0.2が含まれておらず、さらに、上記2種類のパラメータの比の上限について、明細書の[0351]段落、[0355]段落、[0360]段落には「表面CSは最大CTの1.5倍以上である」、「最大CSの絶対値に対する最大CTの比は、約0.01から約2である」などの複数の記述があるため、本専利における最大CSの絶対値に対する最大CTの比には明らかな誤りがあることを確定できなく、該当比の値は唯一の正しい上限が0.2であることも確定できない。優先権文献は中国国内移行段階で提出された中
国語文書と必然的に一致するわけではなく、その内容に基づいて本専利に明らかな誤りがあると認定することができず、本専利の修正根拠とすることはできない。
C社は一審判決を不服して、最高人民法院(以下、最高法院という)に控訴した。控訴人のC社は、当業者が本専利の請求の範囲を読んだ後、表面CSが最大CTより大きいことを確定することができるので、請求項1における最大CSの絶対値に対する最大CTの比は必然的に1より大きくはならない、すなわち比の上限2は明らかな誤りであることが明らかになると主張した。また、本専利の明細書には、比の上限が0.2であることに何度も言及されており、優先権文献に記載されている内容はすべて0.01̃0.2であるため、当業者は0.01̃0.2が唯一の正しい修正方式であると必然的に確定できる。これに対し、最高法院は2024年11月14日に行政判決(2023)最高法知行終607号を下し、C社の控訴請求を却下し、原判決を維持した。
(2023)最高法知行終607号行政判決において、最高法院は、一審判決で言及した本専利明細書の[0351][0355][0360]段落も、C社が言及した[0012][0236]段落も、最大CTと最大CSの絶対値の比の上限値に関連しているが、規定された上限値は段落によって異なり、例えば、[0351]段落に記載された「表面CSは最大CTの1.5倍以上である」から、最大CSの絶対値に対する最大CTの比の上限値は約0.67であると推測できる。また、[0360]段落には、最大CSの絶対値に対する最大CTの比の上限値が2であることが明確に記載されている。この場合、本専利請求の範囲において、最大CSの絶対値に対する最大CTの比の上限値が2であるという記載に明らかな誤りがあると認定することは困難である。優先権文献は、ある程度で当業者の請求の範囲に対する理解に寄与しているが、それが中国国内移行段階で提出された中国語文書と必然的に一致するわけではないので、優先権文献の記載のみに基づいて中国語文書の請求の範囲に対して唯一的な解釈をすることが適切ではない。
3.争点
本案件の争点は、無効審査段階において、請求項1の「最大CSの絶対値に対する最大CTの比は、約0.01~約2である」を「最大CSの絶対値に対する最大CTの比は、約0.01~約0.2である」に修正したことが、「明らかな誤り」に対する修正に属するかことである。
一審法院、最高法院の行政判決から分かるように、請求の範囲自体に「明らかな誤り」があるか否かは、当業者の明細書に対する通常の理解を結合して解釈をすることができる。ただし、このような解釈は、他の解釈をすることなく、当業者が明細書の記載に基づいて唯一に得られる解釈に限定されている。本案件では、明細書には「最大CSの絶対値に対する最大CTの比は、約0.01~約0.2である」だけでなく、他の実施形態にも「表面CSが最大CTの1.5倍以上である」、「最大CSの絶対値に対する最大CTの比の上限値は2である」という記述が記載されているため、当業者は明細書の記載に基づいて「最大CSの絶対値に対する最大CTの比は、約0.01~約0.2である」という唯一的な解釈を得ることができない。よって、一審法院、最高法院ともに、本件請求の範囲における最大CTと最大CSの絶対値の比の上限値が2であるという記載には「明らかな誤り」があることについての認定が困難になると判断した。
同時に、一審法院、最高法院ともに、優先権文献は中国国内移行段階で提出された中国語文書と必然的に一致するわけではなく、優先権文献の記載のみに基づいて専利には明らかな誤りがあると判断してはならず、優先権文献を専利の修正根拠としてはならないと指摘したことについて注意しなければならない。
四、結語
以上より、『専利審査指南』において、無効宣告請求の審査過程において、請求の範囲における明らかな誤りを修正することができると規定されているが、実践の中で、専利法第61条1項の規定に基づいて、請求の範囲に対する修正が「明らかな誤り」に対する修正に該当するか否かを判断する必要がある。しかしながら、専利法第61条1項に規定された「明細書および添付図面は請求項の内容を解釈するために用いることができる」は専利権者の特権ではなく、専利権者は明細書に記載された内容によって請求項の記載を否定することで、請求の範囲を実質的に修正する結果を達成してはならない。請求の範囲における「明らかな誤り」を修正する目的を達成するためには、当業者が明細書の記載に基づいて唯一的に推定して得られたものでなければならず、それは「明細書に基づいて自明である」と明らかな違いがある。
また、優先権文献は請求の範囲の唯一的な解釈とすることができないので、専利の請求の範囲の修正根拠とすることもできない。