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前書き
中国の部分意匠出願制度は2021年6月1日から正式に実施され、具体的な審査基準が遅れて公表されたため、部分意匠出願の審査は2023年まで本格的に展開されていなく、今まで部分意匠に関する無効事例は公開報告されていなかった。
部分意匠の無効審判において、部分意匠の保護範囲をどのように特定するか、対比設計とどのように対比するか、及びどのような無効理由がより適切であるか、などは皆が興味をもっている問題である。最近、初めて発生された以下の部分意匠無効審判事例は、上記の問題に対し、ある程度の回答になると思われる。
案件の紹介
深セン市韶音科技有限公司は2021年10月12日(優先日は2021年6月29日)に「イヤホンの本体(イヤホン2デザイン5)」という意匠専利を出願し、2023年10月20日に登録公告した(専利番号:202130669610.1)。
請求人は、2023年12月06日に国家知識産権局に無効審判請求を提出したが、その理由は、対象意匠が専利法第23条第1項及び専利法第23条第2項の規定に合致しないとして、対象意匠に対して全部無効宣告を請求した。
結論として、合議体は請求人の無効理由がいずれも成立しないと判断し、その無効請求を却下し、意匠専利権の有効性を維持した。
証拠と無効審判請求理由:
証拠1:CN217159953U、出願日が2021年07月29日、優先権日は2020年07月29日、公開日は2022年08月09日;
証拠2:CN306587500S;
証拠3:CN304874631S。
請求人は、証拠1は対象意匠の抵触出願(拡大先願)を構成し、証拠2及び証拠3は対象意匠の従来設計であり、対象意匠はそれぞれ証拠1又は証拠2に対して専利法第23条第1項の規定に違反し、対象意匠は証拠2と証拠3の組み合わせに対して専利法第23条第2項の規定に違反すると主張した。
合議体は、証拠1は中国の実用新案専利出願であり、意匠の抵触出願を構成できる専利種類は意匠専利のみであるため、実用新案は意匠の抵触出願の証拠になることができないと判断した。よって、証拠1は対象意匠が専利法第23条第1項の規定に合致するか否かを評価することはできない。
審理において、請求人は、「対象意匠が証拠1に対して専利法第23条第1項の規定に違反する」という無効理由と、「対象意匠が証拠2と証拠3の組み合わせに対して専利法第23条第2項の規定に違反する」という無効理由を放棄し、無効理由は「対象意匠が証拠2に対して専利法第23条第1項の規定に違反する」のみであることを明らかにした。
専利法第23条第1項:専利権が付与された意匠は、従来のデザインに属さなければならず、いかなる組織又は個人も同様の意匠について出願日前に国務院専利行政部門に出願しておらず、かつ出願日以降に公開された専利文献に記載されていないものでなければならない。
対象意匠専利と証拠2
対象意匠はイヤホン(耳掛け型イヤホン)の部分意匠であり、保護を求める実線部分はイヤホン全体の外部形状である。
証拠2はイヤホン(耳掛け型イヤホン)であり、公開日(2021年6月4日)が対象意匠の優先日よりも早く、従来意匠として認めることができる。
上記の図に示されるように、合議体は、対象意匠と証拠2はいずれも3つの部分、すなわちバッテリセル、耳掛け、保持部を含むと認定した。
請求人は、証拠2の保持部末端の「C」形状の構造と保持部との間には明らかな境界線があり、取り外す可能な構造であるため、証拠2の「C」形状構造を取り外してから、残りの部分をイヤホンとして対象意匠と比較すべきであると主張し、証拠2の「C」形状の構造を取り外した後、証拠2の設計と対象意匠は実質的に同一の意匠に該当すると主張した。
合議体は、請求人の「C」形状の構造を取り外す主張を支持せず、当該「C」構造の機能(保持部とともに内耳に当接し、イヤホンを固定する)から、一般消費者の認知能力によって、使用時に当該部分を取り外すことはないと認定した。したがって、合議体は対象意匠と証拠2の全体の外観を対比した。
対比した結果、合議体は、両者の共通点は、耳掛けはすべて湾曲形状を呈し、バッテリセルはすべて円筒形状を呈していることであると認定した。両者の区別点は、①保持部の形状が異なる。②耳掛けの形状と湾曲程度が異なる。③バッテリセルと耳掛けの接続方法が異なる。対象意匠のイヤホン製品において、上述の共通点はいずれも当該種類の製品の慣用設計に属し、区別点はいずれも一般消費者が容易に注目する部位であるため、両者は明らかな差異があり、イヤホン全体に対する視覚効果に顕著な影響を与える。
したがって、合議体は、対象意匠と証拠意匠は同一の意匠に属さず、実質的に同一ではなく、対象意匠は証拠2に対して専利法第23条第1項の規定に合致しており、対象意匠の専利権の有効性を維持すると判断した。
合議体の判断解釈
本件において、証拠2は全体意匠であり、対象意匠は部分意匠であるが、保護を求める部分はイヤホンの本体であり、破線で示す部分は全体の形状に対する影響が小さく、かつ全体の形状の表現に影響を及ぼさないため、合議体は両者を対比する際に、破線で示された部分について説明せず、破線で示された特徴を無視するとともに、証拠2における本体上の対応する特徴を省略して、全体の形状のみに対して対比した。すなわち、合議体は破線の部分が対象部分意匠の保護範囲を構成しないことを黙認しており、これは中国専利法における部分意匠の実線で表示する部分をその保護範囲とする規定に合致している。部分意匠と証拠意匠を対比する際には、保護を請求する部分意匠と証拠意匠の対応する形状のみに対して対比することは、同様に上述の保護範囲に対して認める表現である。
対象意匠と証拠意匠の対比から分かるように、両者には非常に明らかな区別があるが、専利法第23条第1項は実質的に意匠の「新規性」の問題、すなわち意匠が同一又は実質的に同一である問題に係る規定であり、明らかに対象意匠と証拠意匠は同一又は実質的に同一の意匠に
さず、請求人の無効請求が支持されないことは合理的な結論である。
筆者の観点からみると、本件の請求人が提出した無効理由は専利法第23条第1項違反である。以上のように、専利法第23条第1項は意匠が同一であるか実質的に同一であるかに関する問題である。したがって、対象意匠と証拠意匠の形状が類似していない限り、当該理由は成立しにくい。請求人の理由が専利法第23条第2項の意匠の「進歩性」に関する問題、即ち2つの意匠に明らかな区別がないと主張した場合、無効の可能性は少し高くなる可能性がある。
また、本件において、対象意匠は部分意匠であるが、保護を求める部分は対象製品の本体、即ち全体の輪郭部分であるため、その他の部分は全体の形状にほとんど影響を与えず、対比分析においても証拠意匠の全体の形状と対比した。しかし、部分意匠が耳掛けなどその本体の一部である場合、その部分意匠の新規性や進歩性を判断する際に、保護を求めないその他の部分が保護を求める部分に対してどのような影響を及ぼすか、証拠意匠とどのように対比するか、などの問題に対し、また次の部分意匠の無効事例が期待される。