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宣伝用で公開した営業実績は損害賠償計算の根拠として使用できるか

初めに

専利権侵害案件において、原告は侵害損害賠償金額の要件事実を立証すべきである。ところで、原告は現行中国の「専利法」の規定及び賠償の計算方法によって、賠償金額の計算に対して立証することが困難であるため、専利権侵害案件による賠償には、「法定賠償の適用範囲が広い」及び「賠償金額が低い」という問題が依然として存在する。以下の案例は、侵害損害賠償金額の計算に対する立証について参考の価値がある。


本案例の基本情報

本案件は、専利番号が201320534267.X、名称が「構造補強型アンカー」の実用新案専利(以下、係争専利と略称する)で、権利者は福州のある科学技術会社である。

福州のある科学技術会社は、上海のある建築技術会社及び張氏が2017年から積極的に第3世代ポイント吊り実装技術を推進していたところ、「ポイント吊り専用抜け止めアンカー」が実用新案権の保護範囲内に入り、権利侵害になると判断して、2019年1月に上海知的財産権法院(一審法院)に提訴して、侵害の停止や、損害賠償250万元を請求した。

一審審判において、被告人である上海のある建築技術会社及び張氏が、優先権日が係争専利より早い実用新案専利を提出し、拡大先願の抗弁を主張した。一審法院は2020年9月18日に(2019)滬73知民初21号の民事判決を下ろした。一審判決では、被訴侵害製品は係争専利の請求項1-3、7の保護範囲に入っているが、上海のある建築技術会社及び張氏が主張した拡大先願の抗弁が成り立つので、福州のある科学技術会社の請求を却下した。

福州のある科学技術会社は不服して、最高人民法院に控訴し、被訴侵害製品の技術案が拡大先願に開示されている内容と異なることを主張した。最高人民法院は、2022年5月23日に(2021)最高法知民終民事1066号民事判決を下ろした。二審審判において、係争専利の請求項2-3、7の技術案が拡大先願の技術案と異なり、上海のある建築技術会社及び張氏が主張した拡大先願の抗弁が成り立っていないと判断することにより、原審を取り消して、上海のある建築技術会社及び張氏が侵害を停止し、損害金額250万元を賠償すると判決した。


専利権侵害損害賠償金額の計算方法について

被訴侵害行為が生じる時間によって、本案件は、2008年に改訂した旧専利法が適用される。

旧専利法第六十五条第1項及び第2項の規定により、専利権侵害損害賠償金額の計算方法は以下の4つがある。

一、権利者が権利侵害によって被った実際の損失に応じて確定すること。

二、権利侵害者が権利侵害によって取得した利益によって確定すること。

三、当該専利の使用許諾料の倍数に応じて確定すること。

四、法定的賠償:以上の三項より確定することが困難である場合、人民法院は専利権の種類、権利侵害行為の性質及び情状等の要素に基づき、1万元以上100万元以下の賠償を認定することができること。


立証の苦境

以上の二番目の賠償金額の計算方法について、「最高人民法院が専利権侵害係争案件の審理で法律の適用の若干問題に対する解説(二)」第二十七条の規定により、権利者が権利侵害によって被った実際の損失に応じて確定することが困難である場合は、人民法院は、専利法第六十五条第1項の規定によって、権利者が侵害者が権利侵害によって取得した利益に対して立証することを要求すべきであり、権利者が侵害者が取得した利益に関する予備証拠を既に提供し、専利権行為に関する帳簿や資料が侵害者より握られている場合は、人民法院は、侵害者が該当帳簿や資料などを提供することを命じべきである。侵害者から正当な理由がなく提供しない場合又は偽りの帳簿や資料を提供する場合は、人民法院は、権利者からの主張および証拠によって、侵害者が権利侵害によって取得した利益を認定することができる。

侵害者が権利侵害によって取得した利益について、当該侵害製品が市場で販売した総数に侵害製品1件当たりの合理的利益を掛けて得られた積によって計算することができる。簡単に言えば、権利侵害による侵害者の利益=侵害製品の販売量×製品ごとの合理的利益となる。

この計算方法において、原告が立証すべきである要件事実には、侵害製品が市場での総販売量及び侵害製品1件あたりの合理的利益が含まれている。販売数量に関する資料がほとんど被告側に把握されているため、被告が上記の資料を提出しない場合は、原告は十分な証拠が得られず、立証不能に陥ることがある。


裁判の意見

本案件において、侵害損害賠償金額の計算方法について、上訴人は証拠を提出してその侵害製品の利潤を証明することができないので、その実際の損失を正確に計算することが難しい。また、上訴人は専利使用料の証拠も提出しなかった。この場合、上訴人が侵害によって受けた実際の損失を確定することが難しい。本案件は双方当事者の立証事実を結合して上海のある建築技術会社及び張氏が侵害によって取得した利益を認定すべき、すなわち、上記二番目の賠償金額の計算方法によって計算すべきである。

侵害製品の販売量について、被訴侵害製品は、上海のある建築技術会社及び張氏が積極的に推進している第3世代ポイント吊り実装技術製品の部品である。上海のある建築技術会社及び張氏は、2017年に累計施工面積が200万平方メートル以上に達したと公表し、そのパンフレットや公式サイトなどを通じて関連事例を紹介していた。上海のある建築技術会社の副総経理は2019年2月24日、微信(wechat)のモーメンツを通じて、第3世代ポイント吊り工事を宣伝展示した。

上海のある建築技術会社及び張氏は、上記の事実に対して異議を唱え、具体的に、200万平方メートルが誇大宣伝であり、関連工程の案例は提携先の案例を参考にしたものであり、関連工程が被訴侵害製品を使用していないことを主張した。しかし、上海のある建築技術会社及び張氏は、その実際の工事量を証明する有効な反証を提出していないため、その誇大宣伝の主張は、根拠が不足している。上海のある建築技術会社及び張氏もその実際に使用したアンカーの部品も提出しないので、被訴侵害製品の未使用という主張も事実に合わなく、成り立つことができない。

以上の事実に基づいて、福州のある科学技術会社が主張した1平方メートル当たりの必要な被訴侵害製品の平均使用量は約5本、専利製品の販売単価は3.57元、3.27元など、及び合理的利益率を参考に賠償額を認定して、上海のある建築技術会社及び張氏の侵害利益は250万元を下回らないべきである。

上海のある建築技術会社と張氏の経営規模を総合的に考慮して、その侵害時間が長く、侵害範囲が広く、侵害悪意が明らかであり、且つ福州のある科学技術会社が本案件において支出した弁護士費、公証費などの合理的権利維持費用などの要因によって、法律に基づいて福州のある科学技術会社が主張した250万元の賠償金額を全額で支持する。


裁判の解析

上記の二番目の賠償金額の計算方法に基づいて侵害賠償金額を計算する場合は、権利者は、侵害者が宣伝した営業実績を損害賠償計算の根拠とすることを主張できる。侵害者が当該営業実績が誇大宣伝に属し、実の経営実績ではないという理由で抗弁することがあるが、実際の権利侵害経営の状況を証明する証拠を提出しない場合は、人民法院は、当該公開した経営実績を損害賠償計算の根拠とすることができる。

侵害者が権利侵害によって取得した利益によって賠償金額を計算する際に、本案例はどのように侵害製品の販売量を立証することについて、参考の価値がある。