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請求項に専利出願書類に黙示された内容を追加した修正の範囲を超える問題について

序文

中国専利法第三十三条には、特許及び実用新案の専利出願書類に対する修正は、出願当初の明細書及び専利請求の範囲に記載された範囲を超えてはならないことが規定されている。通常、「出願当初の明細書及び専利請求の範囲」とすると、出願当初の明細書とその図面及び専利請求の範囲に文字または図面等で明示された内容であると理解されている。以下の案件は、請求項を修正する際に専利出願書類に黙示された内容を追加した修正が範囲を超えるか否かの問題に関わる。


案件の経緯

係争専利は、発明名称「高圧自締式フランジ」(出願番号201611044305.8)の特許出願(以下、係争出願と略称する)で、出願人は、中国国内企業である成都植源机械科学技術株式会社(以下、植源会社と略称する)である。

2019年2月27日に、植源会社は係争出願に対して国家知識産権局に復審請求を提出し、国家知識産権局は、2020年3月17日に拒絶査定を維持する旨の復審決定を下ろした。その理由は、植源会社が復審請求を提出する際に、請求項1に追加した技術的特徴「β<α」が出願当初の明細書及び専利請求の範囲を超え、該当特徴を削除する場合は請求項が進歩性を有しないと判断した。

植源会社は、この復審決定に不服して北京知識産権法院(一審法院)に提訴した。北京知識産権法院は、2020年12月29日に(2020)京73行初7100号行政判決を下ろして、被訴決定を取り消すと判決し、国家知識産権局が改めて復審請求審査決定を行うべきであると判決した。一審法院は、当業者は「β<α」という技術的特徴を出願当初の明細書及び専利請求の範囲に記載された内容から直接に、異議なく確定でき、当該修正は専利法第三十三条の規定に合致すると認定した。

国家知識産権局はこの認定に不服して、最高人民法院(二審法院)に控訴した。二審法院は2022年7月13日に、(2021)最高法知行終440号行政判決を下ろして、その控訴を却下すると判決した。二審法院は、一審判決は事実が明らかであり、適用された法律が正確であるので、一審の結果を維持すべきであると認定した。


争点

本案件の争点は、植源会社が係争出願の請求項1に追加した「β<α」という内容は、専利法第三十三条の規定に違反するか、つまり、上記の修正は、係争専利の出願当初の明細書及び専利請求の範囲に記載された範囲を超えているかという問題である。


係争専利

係争専利は、高圧自締式フランジ(下の断面図に示すように)に関するもので、管路接続に用いられ、ハブ4とT型シールリング1のリップ1-2の外側斜面との締まり嵌めにより、自己密着を実現する。

ただし、αはハブ4とT型シールリング1のリップ1-2の外側斜面との締まり嵌めにより存在する締め代角度であり、βはシールリング1のリップ1-2の斜面の傾斜角度である。

出願当初の専利請求の範囲及び明細書には、復審請求時に請求項1に追加した特徴「β<α」が明記されていない。



二審意見

専利法第三十三条の規定により、出願人は、その専利出願書類に対して修正を行うことができるが、発明及び実用新案の専利出願書類に対する修正は、出願当初の明細書及び専利請求の範囲に記載された範囲を超えてはならない。「出願当初の明細書及び専利請求の範囲に記載された範囲」は、当業者として、出願当初の明細書と専利請求の範囲に開示されている技術的内容によって確定すべきである。出願当初の明細書及び専利請求の範囲に記載された範囲は、以下の内容を含むべきである。

1)出願当初の明細書とその図面及び専利請求の範囲に、文字または図面等によって明示された内容;

2)当業者が、出願当初の明細書とその図面及び専利請求の範囲を結合することにより直接的かつ明確に導き出せる内容。

出願人が請求項に追加した内容が、原専利出願書類に明記されていないが、当該追加された内容が原専利出願書類に黙示されたものであり、当業者が原専利出願書類を読んだ上、発明の目的を結合して、直接的かつ明確に導き出せるものである場合には、修正が許可されるべきである。

係争専利は、高圧自締式フランジに対して保護を請求している。出願当初の明細書及び専利請求の範囲には、βとαの関係が明記されていないが、本願の明細書に開示された内容により、シールリングのリップの斜面の傾斜角度βがハブとT型シールリングのリップの外側斜面との締まり嵌めにより存在する締め代角度よりも小さい場合にのみ、ハブとシールリングとの間に適切な線接触力を生じて密着でき、圧力が高いほど自己密着性が高くなるという技術的効果を実現することになる。β>αの場合は、管路内部に高圧媒体が通過されている時に、T型シールリングのリップの内側と外側がいずれも圧力を受け、ハブのシール錐面とシールリングのリップの外側斜面との間に面圧強度を生じることができない。β=αの場合は、T型シールリングのリップの外側斜面はハブの斜面であるフランジ端面と完全に貼り合うことにより、線接触力を生じることができなく、面接触力しか生じない。よって、β>αおよびβ=αの場合は、いずれも本願明細書に記載されている圧力が高いほど自己密着性が高くなるという技術的効果を実現することができない。

よって、原専利出願書類にβ<αの場合が明記されていないが、当業者にとって、出願当初の明細書とその図面及び専利請求の範囲から直接的かつ明確に導き出せるので、β<αの場合にのみ、本願明細書に記載されている技術的効果を実現し、本願発明の目的を達成することができる。従って、β<αは、原専利出願書類に黙示されていた。これにより、植源会社が係争専利に対する修正は、出願当初の明細書及び専利請求の範囲を超えず、専利法第三十三条の規定に合致する。


案件の示唆

1)上記の案件は、出願当初の明細書及び専利請求の範囲には、出願当初の明細書とその図面及び専利請求の範囲に文字または図面等によって明記された内容の以外、当業者が出願当初の明細書とその図面及び専利請求の範囲を結合することにより直接的かつ明確に導き出せる内容も含まれている(即ち、黙示内容)ことを示している。

2)「出願当初の明細書とその図面及び専利請求の範囲から直接的かつ明確に導き出せる内容」は、当業者が原専利出願書類を読んだ上、発明の目的を結合して、直接的かつ明確に導き出せる内容である。

3)専利出願書類に明記されていないが本専利出願書類に黙示されている内容については、必要に応じて請求項への追加を積極的に試みることができる。

4)国家知識産権局の実体審査部門と復審部門は、専利出願書類の修正に関する審査基準がより厳しいため、専利出願書類の作成時に、なるべく核心技術情報を明細書に記載して、早期登録を目指すことが考えられる。