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「先使用の抗弁」が認められた判例の紹介

【はじめに】

中国の判例において、先使用の抗弁が認められた事例が非常に少ない。それは、「過去に所定の実施行為又はその準備をしていたこと」の立証が難しいからである(かかる条文は備考を参考)。

しかし、案件番号が「(2021)最高法知民終1524号」の民事判例では、被告の先使用の抗弁が一審法院及び二審法院に認められ、最終的に被告の被訴製品の製造、販売の行為は専利権を侵害しないと見なされた。

該当案件から、先使用の抗弁において原告が提出できる主張と被告が提出した証拠が満たすべき要求を注目しながら勉強することができる。


【背景】

友強五金机械株式会社(以下、「友強会社」と略称する)は、実用新案専利「連続生地スリッター」の専利権者である。該当専利は、出願日が2017年12月21日で、授権公告日が2018年5月29日である。該当専利権は、今まで合法 的で、有効的なものである。

浩麦食品机械株式会社(以下、「浩麦会社」と略称する)は2016年9月9日に設立して、資本金10万元である。経営範囲は、食品机械の生産販売、食品の小売、卸売りである。

浩麦会社は、彙満円食品株式会社(以下、彙満円会社と略称する)に一台の連続生地スリッター(型番:HM-4P)(以下、被訴侵害製品)を販売したことがある。友強会社と彙満円会社は、共同で雲南省昆明市国信公証処に公証請求を提出し、公証人は被疑侵害製品に対して写真を撮って封印した。

友強会社は、実用新案権侵害で浩麦会社を訴え、浩麦会社は出願前にすでに同じ製品を製造したと主張し、先使用の抗弁を主張した。本案件において、浩麦会社は、先使用権の主張を立証するために、自然之花会社と締結した契約書(型番:HM-3P)、振替証明、製品の実物などの証拠を提出した。上記の証拠は、係争専利出願日より早い期日を示している。それ以外、浩麦会社は、他の顧客との取引履歴や振替証明など複数の証拠を提出した。


【判決の経緯】一審

比較を経て、一審法院は、被訴侵害技術案と係争専利の請求項1に限定された特徴は同じであると判定し、この判定に対して原告と被告はいずれの異議も提出しなかった。

一方、本案件の一審法院は以下の事実を認定した。まず、浩麦会社が提出した製品の実物の名札に「2017.4.8」と刻印されているが、この跡は手彫りであるため、友強会社は当該時間の真実性に対して承認しない。よって、該当証拠の証明力について、その他の証拠を結合して総合的に考慮する必要がある。次に、浩麦会社が提出した契約書の締結日と振替証明の振替日などの証拠との間は、相互証明の関係である。契約書に記載された型番と製品の実物の名札上の関連情報も相互対応し、製品の実物には、使用した跡が明らかにあるので、浩麦会社は、2017年4月24日の前に一台の型番HM-3Pの生地スリッターの製品を製造して自然之花  会社に販売したことが証明できる。友強会社が当該製品と契約書の一致性に対して提出した異議について、反対の証拠がないため認めない。一方、比較を経て、浩麦会社が自然之花会社に販売した製品(HM-3P)と被訴侵害製品(HM-4P)との技術的特徴は同じである。浩麦会社が自然之花会社に販売した製品(HM-3P)と被 訴侵害製品(HM-4P)とは型番が異なるが、該当先使用の製品の名札に記載されている情報によって、型番におけるPの数値は、分割された生地の重さを表しており、技術的な区別に関するものではないことが分かる。双方の立証状況を総合的に考慮すると、浩麦会社が出願日の前に同じ製品を製造した可能性が高いため、係争専利出願日の前に同じ製品をすでに製造販売したと認定する。そして、友強会社は、浩麦会社が元の範囲を超えて継続して製造するという証拠がないため、浩麦会社の製造行為は専利権侵害とは見なされない。同じ理由で、自ら製造した製品を販売する行為も専利権侵害とは見なされない。よって、浩麦会社の先使用の抗弁は認められた。


控訴

一審判決に対して、友強会社は控訴を提出した。その理由は、以下のとおりである。

(1)浩麦会社が提出した顧客との製品取引証拠は、先使用権の主張を支持できない。

(2)浩麦会社が先使用権を主張した製品は、その時点が確認できないものであり、製品上の名札だけで該当製品の生産時間を認定することは厳密ではない。該当名札は、オリジナルものであるか否かも判断できない。さらに、該当製品は浩麦会社が一方的に提出したものであり、第三者の公証手続きを経ていない。名札情報を含み、すべての情報、データ、製品構成はいずれも不確定性、交換可能性が存在する。

(3)立証責任の配分について、友強会社が浩麦会社の先使用の抗弁に対していかなる反証も提出できないことは当たり前のことである。ただ、基本的な事実と論理関係に基づいて異議を提出するしかできない。

(4)浩麦会社が一方的に提出した先使用権主張の製品は、係争専利の技術的特徴を完全に開示しておらず、係争実用新案権と顕著な技術的差があり、先使用の抗弁にならない。

以上により、原審法院が認定した事実および適用した法律は、いずれも誤りがある。


二審

二審法院は、本案は実用新案権を侵害した紛争であり、被疑侵害行為が2009年10月1日以降、2021年6月1日以前に発生したため、本案は2008年の旧専利法を適用すると認定した。

二審法院は、先使用の抗弁が成立する基本条件は以下のとおりであると認定した。

第一、係争専利技術案と被疑侵害者が主張して実施した先行技術案とは同様又は均等であり、先行技術案と被訴侵害技術案は、同様又は均等でなければならない。

第二、先行実施行為は係争専利の出願日前に発生したことで、同様の製品をすでに製造し、同様の方法を使用し、あるいはすでに製造と使用の必要準備を終えたことを含む。

第三、先使用権の製造または使用行為は元の範囲内に限られていなければおらず、専利出願日前の既存の生産規模、及び既存の生産設備を用いて、あるいは、既存の生産準備によって達成できる生産規模を含む。

第四、先使用権者が実施した技術は、独立的に完成した、あるいは合法的に得られた技術でなければならない。

本案件において、浩麦会社の先使用の抗弁に関し、以下のように分析されている

第一、友強会社と浩麦会社は、被訴侵害製品が係争専利の請求項1の保護範囲に入ることに対して異議がないが、友強会社は、先使用権製品が係争専利技術案を完全に開示していないため、両者は顕著な技術的差があると主張した。この点に対して、一審判決における技術調査官は、比較を経て先使用権の技術案と被訴侵害技術案が同様であると判断したので、二審法院は技術調査意見を受け入れた。次に、浩麦会社は、先使用の製品と被訴侵害製品は名称が同様で、型番の表記のみが異なると主張した。該当先使用の製品の名札に記載されている情報によると、型番におけるPの数値は分割された生地の重さを表しており、生地スリッターの部品、構造、位置関係、作用仕方等の技術的特徴とは関係ない。

第二、係争専利の出願日は2017年12月21日である。2017年4月24日に、浩麦会社は自然之花会社と販売  契約を締結した。浩麦会社が提出した契約書の締結時間は、口座振替証明及び口座取引明細に記載されている支払時間と一致している。浩麦会社が提出した先使用の製品には使用した跡が明らかにあり、名札には製品名称、型番、浩麦会社の企業名などの情報が記載されており、名札情報と契約書の情報が互いに対応している。よって、二審法院は、浩麦会社が係争専利の出願日前に、係争専利技術案と同様な製品をすでに製造して自然之花に販売したと認定した一審判決は不適切な点がないと判断した。


第三、浩麦会社が、元の範囲内でかかる製品を製造しているか否かについて、元の範囲とは、専利出願日の前の既存の生産規模、及び既存の生産設備を用いて、あるいは、生産準備によって達成できる生産規模を指す。通常、生産主体の居住地、資本金、経営範囲などが変わらない限り、製造規模が拡大する可能性が低いと考えられる。浩麦会社が提出した「企業信用情報公示報告書」を審査した結果、浩麦会社は2016年9月9日の設立日から2019年7月4日に本案件の一審が立案される時まで、登記資本、居住地、経営範囲及び高級管理人員に変更がない。友強会社も、浩麦会社の実際の生産規模がその元の範囲を超えたことを立証できる証拠を提出しなかった。よって、浩麦会社は本案件の一審の立案日まで、元の範囲内で当該製品を製造していたことと認定できる。

第四、浩麦会社が実施した先行技術が合法的に取得されたものであるか否かについて、本案件において、友強会社はこれに対して異議を提出しなかった。また、浩麦会社が2016年に設立し、2017年から関連製品を製 造販売していることを鑑み、浩麦会社が先行技術を違法的に取得したことを示す証拠がない。

以上より、二審法院は、友強会社の上記請求が成立しなく、浩麦会社の先使用の抗弁が成立すると判定した。


【まとめ】

本件の裁判を振り返ってみると、裁判の争点は以下のとおりである。

(1)被訴侵害技術案と先行技術案が同様又は均等であるか。被訴侵害技術案と先行技術案が同様又は均等である場合にこそ、先使用の抗弁が考えられる。

(2)製品の先使用(取り引き)の時間が係争専利の出願日前であるか。

本件において、上述の争点1について、二審法院は一審の技術調査官が作った先使用の製品と被訴侵害技術案との対比結果を採用し、同時に、製品の名札に記載された情報を用いて補足立証した。

上述の争点2については、二審法院は、契約書の締結日付、銀行の振替日付、製品の使用痕跡、製品名札における情報と契約書に記載された情報の対応性に基づいて、浩麦会社が提出した証拠は完全な証拠チェーンを構築したと認定し、浩麦会社の先使用の抗弁を支持した。