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均等論と献納原則の適用における背景技術の影響

献納原則は専利侵害判定において被告の重要な武器である。しかし、献納範囲をどのように特定するかは、司法実践における難問題でもある。これは、専利権者と社会公衆利益間の平衡に関わる問題である。

【問題点】

通常、明細書に二つの実施例A1とA2が記載され、請求の範囲にはA1のみ記載された場合、実施例A2は社会公衆に献納したと見なす。このような状況は容易に理解でき、権利者がA2を放棄したことが明らかである。しかし、数多い状況において、権利者がある技術案を放棄したか否かが明確ではない。例えば、明細書の背景技術には従来技術に対する記載があり、具体的に下記の二つの状況がある。

(1) 専利権者が従来技術B1の問題を提示し、従来技術B1をB2に改良しようとする。

(2) 権利者が従来技術C1、C2などを列挙し、提供した改良案はC1とC2 の両方に適用されるが、請求の範囲にはC2の改良案のみ記載した。

上記の状況(1)に対し、専利権の改良点がB1にあるため、被疑侵害者が実施したのがB1案である場合、権利者がB1とB2に対して均等論を主張することは法院に認められない。この状況は容易に理解できる。

上記の状況(2)に対し、専利権者の改良点はC1からC2ではなく、C1とC2 を基に改良を行ったが、請求項にはC1とC2をCに上位概念化したのではなく、C2の改良案のみ記載した場合、専利権者がC1の改良案を放棄したと見なしてよいであろうか。

【判例】

近日、最高人民法院が下ろした発明専利権侵害紛争案件の二審判決((2021)最高法知民終192号)が、専利権侵害における均等論の適用制限に対して指導的な見解を提供した。判決は、明細書の背景技術部分の記載に基づいて、権利者が均等特徴に対する保護を放棄したと認定し、実は献納原則で均等論の適用を制限した。この判例は明細書の背景技術の内容にかかわり、献納原則の献納範囲に対する理解について参考的な価値がある。

具体的に、この案件の内容を説明すると、専利明細書の背景技術には以下の内容が記載されている。

【0002】人々の生活環境に対する要求が日々に高まることに従って、都市の緑化建設が益々多くなり、数多い生け垣植物を常に剪定する必要がある。伝統的な作業工具として簡単なハサミがあるが、作業強度が高く、効率が低く、円形形状の生け垣植物を剪定する際に操作難易度が高い。

【0003】伝統的なハサミの作業強度が高く、効率が低い問題を解決するために、現在市場には電動ハサミと燃料ハサミが提供されている。電動ハサミと燃料ハサミは両方とも自動ハサミであるが、円形の生け垣を剪定する時、作業効率が低く、操作難易度が高いなどの問題がある。

【0004】従来の電動ハサミと燃料ハサミの作業強度が高く、効率が低く、操作難易度が高いなどの問題を解決するために、平面剪定と丸形剪定に用いられる電動生け垣機を提供する必要がある。

上記の背景技術から分かるように、本件は上記に記載された状況(2)に属する。燃料機は従来技術C1で、電動機は従来技術C2に属する。権利者の改良点はC1をC2に改良したのではなく、燃料機C1と電動機C2の両方  に対して改良した。しかし、請求項1の主題は「電動生け垣機」と限定されて、電動機C2に対する改良案になってしまった。

訴訟において、被告の被疑侵害製品は「燃料機」で駆動する生け垣機で、原告は被告が製造、販売する生け垣機は自分の専利権を侵害したと主張して人民法院に提訴した。本件の争論点は、被疑侵害製品が使用したのは「燃料機」で駆動する生け垣機で、専利権が保護を求めたのは「電動機」で駆動する生け垣機である。

一審法院の判決

一審法院は、駆動方式はかかる専利が解決しようとする技術問題、核心技術及び技術効果と直接的な関連がない。本案の発明内容から分かるように、平面剪定と丸形剪定の両方とも実現できる自動生け垣機に対して、電動駆動と燃料駆動は基本的に同様な手段で基本的に同様な機能を実現し、基本的に同様な効果を奏し、当分野の技術者が容易に想到できる特徴であるため、二つの駆動方式は均等特徴に属する。すなわち、一審法院は均等論を採用し、「燃料機」は「電動機」と均等的に切り替えられる特徴であると認定した。

二審法院判決

専利権の保護範囲の特定は、専利権者の利益を保護するべきではなく、請求の範囲の公示作用と社会公衆の専利文書に対する信頼も守るべきである。専利権者が出願書類の作成時にかかる技術案を明らかに知っていながら請求の範囲に記入しなかった場合、侵害訴訟において均等論を適用して当該技術案を保護範囲に入れることはできない。明細書の記載から分かるように、専利権者は請求の範囲と明細書の作成時に既に従来技術として電動機駆動と燃料駆動の二種類駆動方法が存在することを明確に知っており、また「環境保護」も本専利が従来技術に比べて新たに増加した技術効果である。請求項及び明細書の記載から分かるように、専利権者は

「環境保護」の技術効果も求めるために、請求項において電動機駆動のみを保護し、燃料機を駆動源とする生け垣機に対して保護を求めなかった。このような状況で、均等論を適用して、燃料駆動と電動駆動が均等的特徴であると認定することは、専利の請求の範囲の公示作用と社会公衆の信頼利益に不利である。最終的に、二審の最高人民法院知的財産法廷は一審判決を取り消し、被疑侵害製品がかかる専利の均等侵害を構成しないと判決した。

【まとめ】

専利権者が専利出願書類の作成時に、明確に知っている技術案を請求の範囲に記入せず、当分野の技術者が請求の範囲や明細書を読んで、専利権者が当該技術案に対する保護を求めないことを確認できる場合、均等侵害を用いて当該技術案を専利権保護範囲に入れることは認められない。

本件の専利侵害の問題は、実は専利出願書類の作成品質問題であることが分かる。高品質の出願書類は、各技術特徴の取捨に対して全体的に考量すべきであり、授権段階のみではなく、侵害段階の対応についても考慮すべきで、所謂「献納」は避けるべきである。本件において、背景技術の部分で「燃料ハサミ」を言及しなかった場合、一審判決の均等論の適用には異議がなかったと思う。現段階で、侵害における「献納原則」の適用は未だ不完全であるが、本件判決はわれわれに実務的な参考を与え、指導的な意義がある。