We Serve the Latest News of IP Industry
for Your Reference
はじめに
2023 年11月29日に、最高人民法院知的財産権法廷は、発明専利出願の拒絶査定不服審判の行政紛争に対して、二審(最終審査)判決を下した。該当判決で示された観点は、「最高人民法院知的財産権法廷裁判要旨要約(2023)」に採用された。
該当判決が採用された理由は、放棄式補正に対する認定、及び放棄式補正が専利法第33条の規定に合致されていること(補正が記載範囲を超えるか)に対する判断ロジックを明らかにしたためである。
案件の詳細
係争発明専利出願情報:
関連判決情報
一審判決:(2019)京73行初7568号
二審判決:(2021)最高法知行終44号
実体審査の結果として、国家知的財産権局は、2017年9月6日に上記専利出願に対して拒絶査定を下した。そして、請求項1~8が保護しようとする技術案は、引用文献1に基づいて、本分野の通常の技術手段を組み合わせて、当業者にとって自明であるので、進歩性を備えないと認定した。
出願人COMADUR社は不服し、2017年12月18日に復審請求を提出するとともに、請求の範囲を補正した。その補正の内容は、請求項1 において「第1混合物に酸化銅粉末が含まれていない」のみをさらに限定した。
COMADUR社は、以下の観点を主張した。即ち、本願明細書には酸化銅粉末を添加することを言及しておらず、同時に当該補正は本願の進歩性に影響を与える引用文献1に基づいて行われたものであるため、中国審査指南に規定された「放棄式補正」に属する。そして、補正後の技術案が新規性と進歩性を備える場合、この補正は許容されるべきである。
合議体は2018年10月30日に復審通知書を発行し、これに対してCOMADUR社は2018年11月16日に出願書類を補正せずに意見陳述書を提出した。
2019年2月21日に、専利復審委員会は復審決定を下した。合議体は、本願は復審請求の段階で請求項1を補正し、拒絶査定で引用された請求項1の進歩性に影響を与える引用文献1に対して、「第1混合物に酸化銅粉末が含まれていない」をさらに限定したので、放棄式補正に属すると判断した。しかし、補正後の請求項1は進歩性を有しないため、COMADUR社が請求の範囲に対する補正は範囲を超えており(元の明細書及び請求項に記載されている範囲を超えている)、専利法第33条の規定に合致していない。最終的に、合議体は、請求項1の補正が専利法第33条の規定に合致していないという理由で、COMADUR社の復審請求を却下した。
COMADUR社は不服して、2019年6月25日に北京知的財産権法院に訴訟を提起した。北京知的財産権法院は審理を経て、以下の観点を認定した。即ち、復審請求の段階で補正された請求項1は進歩性を備えない;その上で、COMADUR社による請求項1の補正は、元の出願書類に開示されていない技術的特徴を除外して請求項の保護範囲を制限する状況に属し、放棄式補正に属し、専利法第33条の規定に合致していない。一審法廷審理で、COMADUR社は復審決定における放棄式補正規則に関する論述を承認すると明確に表明した。よって、被訴決定の関連論述は不適当ではない。これにより、北京知的財産権法院は第一審判決を下し、COMADUR社の訴訟請求を却下した。
COMADUR社は一審判決に不服して、最高人民法院知的財産権法廷に控訴した。最高人民法院知的財産権法廷は審理を経て、以下の観点を主張した。即ち、復審決定の放棄式補正に関する審査ロジックについて議論の余地があり、しかもCOMADUR社が請求項1に対する補正は放棄式補正の形式的要件及び特定状況条件に合致しないため、復審決定は、COMADUR社のいわゆる「放棄式補正」の請求を受け入れ、かつ評価するべきではなく、拒絶査定の根拠となる書類を審査すべきである。同時に、最高人民法院知的財産権法廷は、復審決定における進歩
性に関する論述にも事実認定と法律適用の面で瑕疵があると認定した。これにより、最高人民法院知的財産権法廷は二審判決を下し、一審判決及び復審決定を取り消し、国家知的財産権局にCOMADUR社の復審請求に対して再度審査することを要求した。
二審判決が下された後、国家知識産権局は合議体を再度成立して、COMADUR 社の復審請求について審査した。再度成立された合議体は、2024 年10月25日に復審通知書を出し、二審判決の認定に基づき、COMADUR社が復審請求を提出する際に行った請求項1に対する補正について、受け入れるべきではないと指摘し、上記補正は元の明細書及び請求項に記載された範囲を超え、専利法第33条の規定に合致しないと認定した。
復審通知書が出されたばかりであるため、COMADUR社がどのように対応すること、及び当該専利出願が最終的に登録されるか否かについて、引き続き注目が必要である。
争点
(1)放棄式補正に対する認定
COMADUR社が復審請求を提出する際に請求項1に対して行った補正について、復審決定及び一審判決において、いずれも認めてくれた。
しかしながら、最高人民法院知的財産権法廷は逆の認定を下した。最高人民法院知的財産権法廷は二審判決で以下の内容を主張した。即ち、
(a) 放棄式補正とは、一般的に、請求項を補正する際に否定的な技術的特徴を導入し、特定の保護対象を元の請求項の保護範囲から排除し、元の専利請求項の保護範囲を制限するようになることを指す(放棄式補正の形式的要求)。放棄式補正は、通常、限られた特定の状況しか適用されない。例えば、専利出願が部分的に重複する抵触出願により新規性を喪失すること、先行技術の先行公開により新規性を喪失すること;又は非技術的な理由により専利法で保護されない主題を排除することなど(放棄式補正の特定状況要求)である。
(b) 本願において、COMADUR社は復審段階で請求項1を補正し、「第1混合物に酸化銅粉末が含まれていない」をさらに限定したが、このような補正方式は請求項1に含まれる特定の保護対象に対する排除ではなく、請求項1全体の技術案に対して更なる限定であり、放棄式補正の形式的要求に合致しない。また、当該補正は、専利出願が部分的に重複する抵触出願又は先行技術の先行公開により新規性を回復するために必要なものではなく、さらに、非技術的な理由により専利法で保護されない主題を排除するために必要なものではないので、放棄式補正の形式的要求に合致しない。すなわち、二審判決では、COMADUR社が請求項1に対して行った補正は放棄式補正に該当しないと認定した。
(2)放棄式補正が専利法第33条の規定に合致すること(補正が範囲を超えるか否か)に対する判断ロジック
復審決定及び一審判決では、COMADUR社が復審請求を提出する際に請求項1に対して行った補正が「放棄式補正」であると認定した上で、いずれも審査指南の規定を適用して専利法第33条の規定に合致することを認定した。
しかしながら、最高人民法院知的財産権法廷は、上述の審査ロジックについて議論の余地があると認定した。最高人民法院知的財産権法廷は、二審判決で以下の内容を主張した。即ち、
a)被訴決定の審査ロジックは、まず、放棄式補正が元の明細書及び請求項に記載された範囲を超えていると認定し、その後、当該補正が専利出願に新規性又は進歩性を備えることになるかを判断することにより、該当補正を受け入れるべきかを決定することである。当該補正により専利出願が新規性又は進歩性を備えることになる場合には該当補正は受け入れるものとなり、逆の場合は受け入れないものとなる。このようなロジックは推敲されることが難しいようであり、放棄式補正が元の明細書及び請求項に記載された範囲を超えていると既に認定された場合には受け入れるべきではない。当該補正は専利出願に新規性又は進歩性を備えさせたとしても、範囲を超える欠陥を克服することができない。したがって、被訴決定は、必ず先に放棄式補正が範囲を超えること及び受け入れるべきであるか否かのことを判断して、範囲を超えないかつ受け入れるべきであると認定してから、補正後の請求項が新規性及び進歩性を備えることを審査することになり、逆の順番ではない。
(b)放棄式補正については、上述の形式的要求及び特定の状況を満たす場合を除き、放棄式補正は同様に専利法第33条の規定に合致する必要がある。具体な判断を行う際には、元の明細書と請求の範囲に開示された内容、放棄された保護の内容及び放棄式補正後に保留された内容及び三者の関係等を総合的に考慮した上で、許可について確定しなければならない。当業者が補正後に留保された内容が、元の明細書及び請求項に直接又は暗黙的に開示されたものであることを確定できる場合、該当補正は専利法第33条の規定に合致しており、受け入れるべきである。
案件の示唆
最高人民法院知的財産権法廷は判決では、「放棄式補正」について厳格に認定すべきであると提示した。特に、判決における放棄式補正が範囲を超えること及び受け入れるべきであるか否かのことを先に判断し、範囲を超えないかつ受け入れるべきであると認定してから、補正後の請求項が新規性及び創造性を備えることを審査するという観点は、審査指南における関連規定と逆になる。
したがって、今後、放棄式補正を検討する際には、より慎重にすべきであり、上記の二審判決の観点を参考してより深い分析を行うことを勧める。