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化学分野(特に、医薬分野)の技術効果はいつも実験データを根拠とするため、専利出願の審査段階及びその後の段階において実験データを補足できるか否かは、特に業界の注目を集める問題になっていました。
実験データの補足提出について、それに関わる規定は今まで数回の改正がなされました。
2010年2月1日から施行された「専利審査基準」には、「明細書が充分開示されているか否かの判断は、出願当初の明細書と請求の範囲に記載された内容を基準とし、出願日以降に補足提出された実施例と実験データは考慮しない」と規定しました。
2017年修正した「専利審査基準」には、上記の規定を以下のように修正しました。つまり、「審査官は、出願日以降に補足提出した実験データに対して審査しなければならない。補足提出したデータが証明する技術効果は、当業者が専利出願の開示した内容から得られるものでなければならない。」。
2021年1月15日から施行した「専利審査基準」には、「明細書が充分開示されているか否かの判断は、出願当初の明細書と請求の範囲に記載された内容を基準とする。出願後、出願人が専利法第22条第3項*、第26条第3項*などの要求を満たすために補足提出した実験データは、審査官は審査すべきである。補足提出したデータが証明する技術効果は、当業者が専利出願の開示した内容から得られるものでなければならない。」と規定しました。
最近、北京知的財産法院が発布した十大判例の中の一つとして、当業者の注目を集めた実験データの補足提出に関する判例がありました。
国家知識産権局は、2016年の8月22日付で201410098658.0号発明専利(以下、本出願と称する)に対 して「結晶形の請求項1-7はが進歩性がない」との理由で拒絶査定通知書を下ろしました。具体的には、請求項6に記載の化学物は引用文献に記載の化学物に比べて置換基のみが異なり、この置換基の変更はいずれの技術効果を奏しなかったと判断しました。一方、当業者は従来技術に基づいて、請求項1-7に記載の結晶形を容易に得られると判断しました。
出願人は、2016年12月2日に復審委員会に復審請求を提出し、同時に専利文献WO2009026537A1(以下、証拠1と称する)を提出しながら、以下のように反論しました。ここで、証拠1の出願日は本出願の優先権日より早く、公開日は本出願の優先権日より遅く、且つ本出願の公開日より早いでした。また、証拠1の出願人は、本件の出願人でした。
証拠1には、本出願の請求項1-7に記載の結晶の母化合物が有効のSGLT抑制剤であることが既に実証され、SGLT2に対し て選択的抑制作用があると記載されています。しかし、証拠1 の母化合物は油状物であり、このような油状物は工業製造が困難であります。本出願は、証拠1の母化合物(無色油状物)から請求項1-7に記載の結晶形を製造し、結晶形の物質が薬物の保存の安定性、品質の制御性及び使用の便利性に有利であるため、これは薬物分野で重大な意義を有しています。よって、このような母化合物の結晶形を獲得する自体が本出願の効果になります。
しかし、合議体は審査決定において、証拠1の公開日が本出願の優先権日より遅いため、証拠1は本出願の従来技術ではないと認定し、当業者は、当該結晶形に関わる母化合物の専利出願の記載に基づいて、当該結晶形がSGLTの活性を有効に抑制する効果を有することを予期できない、と判断しました。これにより、復審委員会は、拒絶査定を維持する決定を下ろしました。
つまり、復審委員会は審査決定において、証拠1の採用要否について評論しただけで、拒絶査定の理由については有効な評論をしませんでした。よって、出願人と復審委員会の争点は、証拠1の技術効果及びかかる実験データを採用できるか否かの問題になりました。
その後、出願人は北京知的財産法院に行政訴訟を提出しました。
行政訴訟の判決書において、法院は、補足提出する実験データが採用できるか否かは、当該技術効果が出願人の「出願日」前の技術的貢献であるか否かによるものであり、公衆が発明から当該効果を確認できるか否かによるものである、と認定しました。このような条件を満たす場合、実験データを採用しても、出願人が技術的貢献を超える保護を得ることを防ぎ、公衆利益も影響しないため、このような実験データが証明する技術効果は、進歩性の判断において考慮すべきであると、判断しました。
具体的には、出願人が提供した証拠1は先願であり、出願人が同一で、その優先権日は本出願の優先権日より早く、その公開日は本出願の公開日より早いため、証拠1は、出願人が本出願の優先権日前に実験を通じて本出願の化合物の効果を検証したことを証明することができます。また、公衆は、本出願の前に証拠1を得ることができ、本出願の化合物が対応する技術効果を有することを確認することができます。よって、証拠1の実験データを受け入れることは、公衆利益に損害を与えません。
上記の理由により、法院は判決において補足提出した実験データを受け入れました。但し、判決書において、本件は原告が補足提出した実験データを採用しましたが、このような明細書の作成方式は出願人にとって結果を予期できる方法ではないと指摘しました。実験データが採用できる条件の一つとして、先願の公開日が本出願の公開日より早いことですが、これは必然性があることではありません。よって、出願人はなるべく発明内容に関わる実験データを出願当初の明細書に直接記載すべきであります。
上記の判例から分かるように、司法解釈と審査基準には「補足提出した実験データは審査すべきであると」規定しましたが、実務において、補足提出した実験データが採用できるか否かは未だ厳しい限定条件があります。よって、出願人はなるべく実験データを出願当初の明細書に直接記載すべきであります。
一方、上記の規定(一)の第10条には、薬品専利出願人が出願日以降に補足提出した実験データが、発明が専利法第22条第3項、第26条第3項などの規定を満たすことを主張するためである場合、人民法院は審査すべきであると規定しました。それでは、薬品専利以外の出願に対しても、当該規定を参考して処理するのかなどの問題は、われわれが注目すべき問題であります。
今後も継続して司法判例に注目し、中国の審判傾向を伝えたいと思います。